そうきてったい

日常レビュー

潜水服は蝶の夢を見る 感想

圧倒的な不自由から気づかされた自由

 
今回観たのはフランス映画の【潜水服は蝶の夢を見る
 

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フランス映画は“TAXi”シリーズ以外観た記憶がなかったので、
観る前はフランス映画ってどんな感じだったけ??と思っていた。
 
観てみると全然違った…TAXiとは
(でもセクシー描写が入ってるのは一緒だった。)
 
映画のあらすじを簡単に説明すると、
大手ファッション誌のやりて編集長ジャンドーがある日、脳溢血に襲われ、
耳と左目以外の自由がきかない体になってしまう“閉じ込め症候群”になってしまうことを描いた実話
 
この映画の感想をいうと、まず、怖い。
 
映画の冒頭から中盤前ぐらいまでは閉じ込め症候群になったジャンドーの一人称視点で話が展開していく。
一人称視点で見せられるせいか、視界をジャンドーと共有している為、
彼の恐怖や不安、怒りの感情が自分の中へ流れこんでしまう。
 
ジャンドーは左目と耳しか機能できていないので、体を動かすことは瞬き以外できない。
ということは、喋れない。
伝えたいことが伝えられない。こんなストレスと不安はないと思う。
そして一人称視点が妙にリアルで、瞬きができなくなってしまった右目のまぶたを縫うシーンがあるんだけど、
そのリアルさは目を背けたくなってしまいたくなるほど。
痛みと、右目の機能を失う恐怖をジャンドーと共有させられた。
これを今流行りのVRで見せられたら僕は耐えられない。
 
しかし数日後、言語療法士からジャンドーにあるコミュニケーション手段が提案される。
言語療法士のアンリエットがアルファベットを順に読み、伝えたいアルファベットが読まれたらジャンドーが瞬きをし、それを一文字一文字書きとめ単語にし、文章にするといった方法。
これが、まぁーーー大変!!
目的の文字が読まれるまで瞬きすることができず、読み手と息が合わないと違う文字で認識されちゃうしで上手く伝えられない。
「ありがとう」1つ伝えるのだって大変。
 
そうして脳溢血に襲われるまでは、大手ファッション誌で編集長だったジャンは変わり果てた自分、1人では何もできない自分に疲れ、何度も瞬きをして「死にたい」とアンリエットに伝える。
しかし、ある日を境に自分を憐れむのをやめることになる。
左目と耳以外にも麻痺していないものが2つあることに気づいたからだ。
それは《想像力》と《記憶》。
 
想像力で時や場所を超え、記憶で大切なことを思い出すことができる。
圧倒的不自由な中で手に入れた自由。
想像の世界で生きている彼は誰よりも自由で、どこにでもいける。
 
そして彼はあることを始める。
 
自伝を書くというのだ。
 
書くといっても、もちろんジャンドーは書けない。
だから新たなパートナーのクロードへ、瞬きで一文字一文字伝えて本を書いてもらう。
こうして途方もない執筆活動が始まった…。
 

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これが実話なのだからすごい。
とんでもなく大変な作業だったのは間違いないだろう。
 
そういえばこの映画、面白いのがさっきも書いた様に、
冒頭から中盤前ぐらいまでは一人称視点中心で物語が展開するんだけど、
中盤ごろからジャンドーを映すようになり、三人称視点にさらっと移行する。
そのタイミングはジャンドーが2つの新たな自由に気づき始めた時からで、
ジャンドーが自分の不自由な体から精神が解放された時、
視聴者の僕らもジャンドーの体から解放される。
中盤以降はジャンドーの生涯を、ジャンドーとは違う個体(自分)として観れるのだ。
 
ただ、冒頭から体験した疑似体験を頭は忘れてはいない。
中盤以降もジャンドーの一人称視点はところどころで出てくる。
それが効果的で、俯瞰してみれる自分と、感情移入してみれる自分が同時に現れる。
上手い。
 
……映画にわかのクセに長文になってしまった…。
 
この映画を観終わった後、何故かとても綺麗で哀しい曲を聞き終わったような感じがした。
カメラのカット、台詞、フランス女性、1つ1つが美しく、詩的な雰囲気を感じる映画で、
(「全米が泣いた」系のほらっ!お涙よこせ!的な作品ではないです。)
感動的な話というには残酷で、悲劇と呼ぶにはじんわりときらめく、とても素敵な作品でした。
 
 
☆☆☆お気に入りシーン☆☆☆

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 この帽子が可愛い。